山梨県郡内地域に配布された「求人ウイークリー郡内版」を見ると、時給1,060円程度の仕事から、
時給2,000円の専門的な製造業務まで、かなり幅があります。
結論からいうと、今回の求人には高時給の仕事もありますが、清掃・販売・製造補助など多くの
仕事は最低賃金に近く、東京・神奈川はもちろん、静岡県と比べても低い水準です。
この賃金格差は、若者が進学・就職を機に県外へ出て、そのまま戻らない理由の一つになってい
ると考えられます。
1.折込広告に掲載された主な求人
※「民博清掃」は「民泊清掃」の表記間違いと仮定しています。
2.山梨県の最低賃金と比べる
2026年8月24日現在、山梨県の地域別最低賃金は時給1,052円です。パート、アルバイト、臨時、
嘱託など雇用形態に関係なく適用されます。
また、県内の電気機械・情報通信機械器具製造業などには、一定の条件で時給1,100円の特定最
低賃金が適用されます。山梨労働局「山梨県の最低賃金」
求人の最低額を、山梨県最低賃金と比較すると次のようになります。
時給1,060円の求人は、最低賃金をわずか8円上回るだけです。1日8時間・月20日働いても、
額面は約16万9,600円です。
時給1,100円でも月額換算は約17万6,000円です。ここから社会保険料、税金、車の維持費、
ガソリン代などが引かれます。
郡内地域は鉄道やバスだけで通勤できる職場が限られ、自動車が必要になる場合も多いため、
家賃が東京より安くても「自由に使えるお金が多い」とは限りません。
3.周辺都県・全国との最低賃金比較
最低賃金は、地域間の賃金水準を比べるための一つの分かりやすい基準です。
山梨県は、隣接する東京都、神奈川県、静岡県、長野県のすべてを下回っています。全国加重
平均よりも69円低い水準です。
特に東京とは時給で174円の差があります。
1日8時間、月20日働くと、
山梨県最低賃金:月額約16万8,320円
東京都最低賃金:月額約19万6,160円
1か月の差:約2万7,840円
1年間の差:約33万4,080円
となります。
もちろん東京都は家賃や物価が高いため、単純に東京の生活が楽だとはいえません。しかし、
賃金を基準に社会保険給付や将来の厚生年金額が決まる部分もあり、長期間働けば生涯所得の
差は大きくなります。
4.今回の求人の中には高賃金もある
スタッフサービスの通信機器組み立ては時給2,000円、時間外2,500円です。月20日・1日8時
間なら、単純計算で月32万円になります。
これは山梨県内ではかなり高い求人です。ただし、次の点を確認する必要があります。
派遣社員か直接雇用か
契約期間はいつまでか
特別な技能や経験が必要か
勤務地が山梨県内か県外か
交替勤務や夜勤があるか
高時給に賞与や退職金が含まれているか
契約更新の可能性があるか
「時給が高い=安定した高収入」とは限りません。期間限定の派遣、夜勤、交替制、生産繁忙
期だけの募集という可能性もあります。
民泊清掃の時給1,500~2,000円も魅力的ですが、1日8時間・週5日働けるとは限りません。1
室単位の短時間勤務で、移動時間や待機時間には賃金が出ない可能性も確認する必要があります。
5.日給1万1,500円の警備は高いのか
高速道路保安監視員の日給1万1,500円を、8時間勤務と仮定して時給換算すると約1,438円です。
ただし、高速道路の警備には次のような負担があります。
屋外での暑さ・寒さ
夜間勤務
車両事故の危険
長時間の立ち仕事
現場までの移動
工事日程による仕事量の変動
また、広告に記載された月額19万3,000~24万1,500円を見ると、毎月必ず日給1万1,500円×20日
以上働けるとは限らないようです。
日給だけでなく、月平均の勤務日数、雨天中止時の扱い、交通費、夜勤手当、社会保険の有無
を確認した方がよいでしょう。
6.月給23万~35万円の施工スタッフ
水回り商品施工スタッフの月給23万~35万円は、今回の求人の中では比較的高い水準です。
勤務5年で月給30万~35万円という例も示されています。
ただし、施工職は技術を身につける必要があり、次の負担も考えられます。
重い設備や資材を扱う
現場への移動が多い
早朝出勤や残業がある
経験や施工件数で賃金が変わる
基本給に固定残業代が含まれる場合がある
月給35万円という上限だけで判断せず、入社時の基本給、固定残業時間、賞与、昇給実績、
休日数を確認することが大切です。
7.賃金の低さは人口減少の原因なのか
賃金格差は、人口減少、とりわけ若者の県外流出に関係する重要な要因です。
山梨県も、就職期の若者、特に女性が県外へ出て戻らない問題を認識しています。県知事も、
その背景として「希望する働く場が県内に必ずしも十分ではないのではないか」と述べています。
総務省の人口移動統計では、山梨県は2024年に転入超過となったものの、2025年には再び転出
超過へ転じました。総務省「住民基本台帳人口移動報告2025年」
若者が東京や神奈川へ移る理由は、賃金だけではありません。
希望する職種が多い
大学や専門学校が多い
正社員求人や大企業が多い
昇進・転職の機会が多い
公共交通が充実している
娯楽、買い物、交流の場が多い
女性が能力を生かせる職場を見つけやすい
つまり問題は「時給が低い」だけでなく、職業選択の幅と将来の成長機会が少ないことです。
8.山梨県の人口減少は賃金だけでは止められない
山梨県の人口減少には、大きく二つの原因があります。
一つは、若者が県外へ出る「社会減」です。もう一つは、死亡数が出生数を上回る「自然減」
です。
2026年7月1日現在の山梨県推計人口は77万3,816人で、前月より516人減少しています。
高齢化が進んでいるため、仮に転入者と転出者が同じになっても、出生数より死亡数が多い状
態が続けば人口は減ります。
したがって、賃金引き上げだけですべてが解決するわけではありません。しかし、若者が県内
で結婚や子育てを考えられるようにするには、安定した雇用と十分な賃金が欠かせません。
9.今回の折込広告から見える山梨県の課題
今回の求人を見ると、山梨県内にも時給2,000円や月給30万円以上を目指せる仕事はあります。
しかし、全体としては次のような構造が見えてきます。
清掃・販売・製造補助は最低賃金に近い
高時給求人は派遣、短時間、専門職など条件が付く
正社員でも仕事内容によって賃金差が大きい
車通勤の負担を考えると生活に余裕が出にくい
若者が将来の昇給やキャリアを描きにくい
特に時給1,060~1,100円程度では、物価高や社会保険料の負担に賃上げが追いついているとはい
いにくいでしょう。
なお、2026年度の最低賃金改定について、中央最低賃金審議会は山梨県を含むBランクに56円
引き上げの目安を示しています。これはまだ山梨県の最終決定額ではありませんが、仮に1,052円
から56円引き上げられれば1,108円になります。厚生労働省「令和8年度最低賃金改定の目安」
その場合、今回の時給1,060円、1,070円、1,100円の求人は、新しい最低賃金の発効後には賃金
改定が必要になります。
まとめ
山梨県の最低賃金は全国加重平均より69円、東京都より174円、神奈川県より173円低く、隣接
する静岡県、長野県も下回っています。
今回の折込求人にも高賃金の仕事はありますが、多くは最低賃金に非常に近い水準です。
山梨県の人口減少を抑えるには、単に最低賃金を上げるだけでなく、
正社員として長く働ける職場を増やす
若者や女性が希望する職種を増やす
技術習得と昇給が結びつく仕組みをつくる
通勤交通費や自動車維持費の負担を軽くする
子育て、住宅、教育支援を充実させる
といった総合的な対策が必要です。
「山梨は家賃が安く自然が豊かだから、賃金が低くてもよい」という考え方では、若者を引
き留めることは難しいでしょう。住み続けたいと思える地域にするためには、生活費を払うだ
けで終わらず、貯蓄や将来設計ができる賃金水準を目指す必要があります。

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